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学力は、どのように伸びるのか。―― 教育研究と実践が示す「伸びる学び」の条件(前編)――

ここまで本稿では、偏差値の役割と限界、多様な知性、教育心理学、AI時代の教育、そして教育現場から見える学力について考えてきました。


本章では、それらを踏まえた上で、一つの問いに向き合います。


「学力は、どのように伸びるのか。」


教育に携わる者であれば、誰もが一度は考える問いでしょう。


また、受験生や保護者にとっても、「成績を伸ばすには何が必要なのか」という問いは、日々の学習に直結する切実な関心事です。


しかし、この問いに対して「これさえやれば伸びる」という万能の答えはありません。


教育学、教育心理学、認知科学の研究は、それぞれ異なる立場から学習を分析しています。


それでも、それらの研究を俯瞰すると、一つの共通した方向性が見えてきます。


学力とは、一つの要因だけで決まるものではないということです。


生まれ持った特性。


これまでに積み重ねた知識。


学習方法。


学習環境。


学習を継続する力。


これらが相互に影響し合いながら、学びは少しずつ形づくられていきます。


だからこそ、学力を理解するためには、「何を勉強するか」だけでなく、「人はどのように学ぶのか」という学習そのものの仕組みを知る必要があります。


■■ 学力は「知識」と「学び方」の積み重ねで育つ


学力という言葉から、多くの人は「知識の量」を思い浮かべるかもしれません。


もちろん、知識は学力の重要な土台です。


数学の公式を知らなければ問題は解けません。


英単語を知らなければ英文は読めません。


歴史上の出来事を知らなければ、その背景を考察することもできません。


基礎知識は、あらゆる学習の出発点です。


一方で、認知科学では、知識を持っていることと、それを必要な場面で適切に活用できることは、必ずしも同じではないと考えられています。


例えば、公式を暗記していても、どの問題で使えばよいのか判断できなければ、得点には結びつきません。


英単語を数多く覚えていても、文章全体の構造を理解できなければ、正確な読解は難しいでしょう。


つまり、学力とは「知識」と「知識を活用する力」の両方によって成り立っています。


この考え方は、日本の学習指導要領でも、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」を一体的に育成するという理念として示されています。


学ぶとは、知識を増やすことだけではありません。


知識を整理し、結び付け、必要な場面で使えるようにすることでもあります。


■■ 学習時間は必要条件であって、十分条件ではない


受験期になると、「一日に何時間勉強したか」が話題になることがあります。


もちろん、学習時間は重要です。


一定量の学習を積み重ねなければ、知識も技能も身につきません。


しかし、多くの教育研究では、学習時間だけでは成果を十分に説明できないことも明らかになっています。


同じ三時間学習しても、その内容は人によって大きく異なります。


新しく学んだ内容を整理している人。


間違えた問題を分析している人。


ただ答えを書き写して終わる人。


どの学習も「三時間」ですが、学習の質には違いがあります。


教育心理学では、このような違いを「学習方略(Learning Strategies)」として研究してきました。


学習方略とは、学習者が理解や記憶を深めるために意図的に用いる方法や工夫を指します。


例えば、


・要点を自分の言葉でまとめる。


・学んだ内容を他者に説明する。


・間違えた原因を分類して記録する。


・一定期間を空けて復習する。


こうした学習方略は、多くの研究で学習成果との関連が報告されています。


もちろん、すべての学習者に同じ方法が最適というわけではありません。


しかし、「長時間勉強した」という事実だけでは、学習の質を評価することはできないという点については、多くの研究者の見解が一致しています。


■■ 「理解した」と「できる」は同じではない


授業中には理解できたと思っていた問題が、翌日になると解けなくなっていた。


このような経験は、多くの学習者に共通しています。


これは決して能力が低いからではありません。


人間の記憶の仕組みによる、ごく自然な現象です。


認知心理学では、学習直後に「分かった」と感じることと、その知識を長期間保持し、必要な場面で再現できることは異なる過程であると考えられています。


そのため近年では、「どれだけ繰り返し読むか」よりも、「どれだけ思い出すか」が重要であるという研究も数多く報告されています。


教科書を読み返すだけではなく、


問題を解く。


自分の言葉で説明する。


白紙から思い出して書き出す。


こうした「知識を取り出す学習(検索練習)」は、長期的な定着を促す方法として注目されています。


学習とは、知識を頭に入れる作業ではありません。


必要なときに使える状態へと育てていく過程なのです。


(後編へ続く)


 
 
 

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