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大学受験専門塾として、私たちが大切にしていること―― 教育研究と教育実践をつなぐ現場から ――

本稿では、「偏差値は、本当に頭の良さなのか。」という問いから出発し、統計学、教育学、認知科学、教育心理学、そして国際的な教育の視点を通して、「学力」と「教育」について考えてきました。


本章では、その議論を踏まえ、一つの教育現場として、私たちが日々の指導で大切にしていることを述べたいと思います。


ここからは、学術的な知見を紹介する章ではありません。


教育研究から得られた知見を、一つの大学受験専門塾としてどのように実践しているのかという、教育実践についての考察です。


そのため、本章には筆者自身の教育観が含まれます。


■■ 大学受験は「ゴール」ではなく、「学び方」を身につける機会である


大学受験は、多くの受験生にとって人生の大きな目標です。


志望校合格を目指して努力する日々は、決して容易ではありません。


しかし、教育という視点から見ると、大学受験は人生の最終目標ではありません。


大学で学ぶための準備であり、その先の社会で学び続けるための土台を築く期間でもあります。


だからこそ、私たちは「合格だけ」を目標にした指導は行いたいとは考えていません。


もちろん、大学受験専門塾である以上、志望校合格は最も重要な使命です。


しかし、その過程で身につけた学び方こそが、大学でも、社会でも、その後の人生でも生き続けると考えています。


受験勉強には、合格以上の価値があります。


それは、自ら考え、自ら学び、自ら課題を解決していく力を育てる機会だからです。


■■ 一人ひとりに同じ指導は存在しない


教育研究が示しているように、学習者には個人差があります。


理解の速さ。


得意・不得意。


学習経験。


目標。


生活環境。


どれ一つとして同じ人はいません。


それにもかかわらず、全員に同じ学習方法を勧めることは、教育として適切とは言えないでしょう。


私たちは、まず現在地を知ることを大切にしています。


どこでつまずいているのか。


何が理解できていて、何が理解できていないのか。


知識が不足しているのか。


学習方法に課題があるのか。


こうした点を丁寧に確認し、一人ひとりに合わせて学習の優先順位や進め方を考えていきます。


教育研究が示す一般的な知見は重要です。


しかし、それを目の前の一人の生徒にどう生かすかは、教育実践の役割です。


■■ 「教える」よりも、「学べるようにする」


塾というと、「分かりやすく教える場所」というイメージを持たれることがあります。


もちろん、それも大切な役割の一つです。


しかし、どれだけ分かりやすい授業であっても、学び続ける力そのものが育たなければ、長期的な成長にはつながりません。


私たちが目指しているのは、「教えて終わる指導」ではありません。


自分で考えられるようになること。


自分で課題を見つけられるようになること。


自分で学習を改善できるようになること。


つまり、「教わる人」ではなく、「学べる人」を育てることです。


そのためには、知識だけではなく、学習計画の立て方、復習の方法、間違いとの向き合い方まで含めて支援することが必要だと考えています。


■■ 偏差値だけで生徒を見ない


大学受験では、偏差値は重要な指標です。


模試の結果も、学習状況を客観的に把握するための大切な資料になります。


しかし、私たちは偏差値だけで生徒を評価することはありません。


昨日まで解けなかった問題が解けるようになった。


苦手だった教科に自分から取り組めるようになった。


学習計画を立てられるようになった。


質問することを恐れなくなった。


こうした変化もまた、教育において非常に重要な成長です。


数字には表れにくい変化だからこそ、日々の指導の中で丁寧に見つめていきたいと考えています。


■■ 教育に必要なのは、信頼関係である


教育研究では、教師と学習者の信頼関係が学習意欲や学習成果に影響を与えることが報告されています。


これは塾でも同じです。


分からないことを安心して質問できること。


失敗しても挑戦できること。


努力を正しく認めてもらえること。


そのような環境があって初めて、人は安心して学ぶことができます。


だから私たちは、教科指導だけではなく、一人ひとりとの対話を大切にしています。


学習状況だけではありません。


目標。


不安。


悩み。


将来への希望。


それらにも耳を傾けながら、生徒が前向きに学び続けられる環境をつくることも、教育の重要な役割だと考えています。


■■ 教育に「完成」はない


教育研究は今も進歩を続けています。


新しい知見が生まれれば、これまで正しいと考えられていた方法が見直されることもあります。


教育実践も同じです。


目の前の生徒から学ぶことは、今も数多くあります。


だから私たちは、「これが唯一の正解だ」と考えることはありません。


研究から学ぶ。


実践から学ぶ。


生徒から学ぶ。


その積み重ねを続けながら、より良い教育を探究し続けることが、教育に携わる者の責任だと考えています。


■■ おわりに


本シリーズは、「偏差値は、本当に頭の良さなのか。」という問いから始まりました。


その問いに対する結論は、本稿を通して繰り返し述べてきたとおりです。


偏差値は、受験において重要な指標です。


しかし、人間の価値そのものではありません。


学力とは、知識だけではありません。


知識を活用し、考え、学び続ける力まで含めたものです。


そして教育とは、その力を育てる営みです。


大学受験は、その力を育てるための大切な機会の一つです。


だから私たちは、合格という結果だけを追い求めるのではなく、その先の人生にもつながる「学び続ける力」を育てることを目指しています。


社会は変わり続けます。


求められる知識も変わり続けます。


しかし、自ら学び、自ら考え、自ら成長し続ける力の価値は、これからも変わることはないでしょう。


その力を育てること。


それが、大学受験専門塾として、私たちが最も大切にしている教育です。


■■ 参考文献・参考資料


【統計学】

・東京大学教養学部統計学教室 編『統計学入門』東京大学出版会

・豊田秀樹『統計学入門』朝倉書店


【教育学】

・Howard Gardner, *Frames of Mind: The Theory of Multiple Intelligences*(1983)

・中央教育審議会 各種答申

・文部科学省『学習指導要領』


【教育心理学】

・Carol S. Dweck, *Mindset: The New Psychology of Success*(2006)

・Albert Bandura, *Self-Efficacy: The Exercise of Control*(1997)

・Barry J. Zimmerman, Self-Regulated Learning に関する研究


【認知科学・認知心理学】

・John H. Flavell, "Metacognition and Cognitive Monitoring"(1979)

・Henry L. Roediger III & Jeffrey D. Karpicke, "Test-Enhanced Learning"(2006)


【国際教育】

・OECD『Learning Compass 2030』

・OECD『PISA 2022 Results』


■■ 執筆方針


本シリーズは、統計学、教育学、教育心理学、認知科学および公的機関が公表する資料をもとに執筆しました。


教育には多様な理論や立場が存在します。本稿は、その中でも広く参照されている研究や公的資料を中心に構成し、特定の教育理論のみを支持することを目的としたものではありません。


また、この章では、大学受験専門塾としての教育実践と教育観を述べています。この部分は研究成果を踏まえつつも、教育現場での経験をもとにした筆者の見解を含んでいます。


 
 
 

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